西側の主庭側から見た岩崎邸。2段式のバルコニーは円柱と梁の構成で、ポーチコ(柱)が古代ローマの建築意匠でこちらも彫刻が施してある。2階はイオニア式(アイオニックシンメトリー)で1階の方はドーリア式(ドーリックシンメトリー)。イオニア式は元々BC7世紀、小アジアのイオニア地方で成立した建築様式だ。今回の見学では、このバルコニーに使われた用材についての表示は見つからなかったが、以前の調査では、岩崎邸は、ルネッサンス建築で建築様式はジャコビアン様式と言われているが、東西南北のそれぞれの表情から折衷様式と言ってよい。このダイナミックな2層のバルコニーは現在なら「ビクトリアン様式のスイスコテージ型式」などといわれるが、設計者であるジョサイア・コンドルは英国人であり、当時の英国は世界中をコロナイズ(植民地化)していた時代である。特に東インド会社の関係で、インドとは英国は密接であり「インドのベンガル地方の建築」は日除けと風通しまた日焼けやスコールから建物を守り憩いの「緩衝地帯」としてフロントポーチを設けていた。この「ベンガル」の建築デザインを「バンガロウ」と呼ぶようになっていた。長崎のグラバー邸もこの「バンガロウ様式」である。また、ヨーロッパの王族は建物の中から民衆の前に建つ際にこのバルコニーに建つという権威の象徴としても重要な場所であった。三菱財閥3代目で岩崎弥太郎の長男としては、久弥は先進国のルネッサンス建築で日本の近代化をあらわし自らの権威の象徴として2段の重厚なバルコニーを設けたことは疑いがないであろう。また外部で使った建材は、長い年月に風雨にさらされても朽ち難く、また北限産という希少価値のあった「シベリア産ラワン材」が用いられている。現在も変わらず使い継がれている。また、1階バルコニーの床には「サラセン」のモザイクタイルが敷き詰められている。建材は希少性ある資材を世界中から集めた商運会社三菱ならではのものと言える。
2階はイオニア式(アイオニックシンメトリー)
1階はドーリア式(ドーリックシンメトリー)
サラセン調の厚手のタイルが敷き詰められた1階バルコニー